生態系、人体、経済に影響を与える特定外来生物
特定外来生物を知っていますか?
生態系や人体、経済、産業に影響を及ぼす恐れのある動植物を特定外来生物と定義しています。
その特定外来生物は100種類以上あります。
一例を示すと、昨今、新聞やテレビで話題になり、多くの方がご存じであろうヒアリがあります。
ヒアリはとても攻撃的で、刺されると火傷したような痛みを感じ、水ぶくれになったり膿が溜まったりします。またアレルギー反応により呼吸困難、血圧低下、意識障害を起こすこともあります。
ヒアリは人体だけではなく他の動植物にも悪影響を及ぼします。他のアリを襲ったり、希少種である小動物を食べたり、生態系のバランスを崩します。乳牛を襲ったり、ヒアリの定着により畑が使えなくなったり、また、信号機や空港の電気設備を故障させた例もあります。
このように、人や生態系に悪影響を及ぼす外来生物を外来生物法で特定外来生物として指定して規制しています。
外来生物法
外来生物法とは「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」で、2005年10月1日から施行されました。
この法律の目的は、特定外来生物の取扱いを規制することで、生態系が壊れてしまったり、人の命や人体に悪影響を与えることを防ぐことです。
特定外来生物は、そもそも海外で生息しており日本にはいなかった生物で、何らかの理由で日本に入り込み、人や自然界に悪影響を及ぼす恐れのあるものです。悪影響を及ぼすかどうかは専門家の意見を聴き、国が指定します。
特定外来生物 一覧
環境省のホームページで「特定外来生物等一覧」(2021年8月13日最終更新)を見ると、哺乳類 25種類、鳥類 7種類、爬虫類 21種類、両生類 15種類、魚類 26種類、昆虫類 25種類、甲殻類 6種類、クモ・サソリ類 7種類、軟体動物等 5種類、植物 19種類と、全部で156種類あり、すべてが特定外来生物と判定されているわけではありません。しかしいずれにしても、100種類以上、ほとんどが特定外来生物と判定されています。
例えば、アライグマ、タイワンリス、ヌートリア、カミツキガメ、アルゼンチンアリ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ、カワヒバリガイ、ヒアリといったものが並んでいます。
また、このリストには、生態系や人体に影響を与えるかどうか、定着し分布拡大しているか、などを確認することができます。
「生態系や人体、経済、産業に影響を及ぼす恐れのある特定外来生物リスト」では、生態系被害だけでなく人体や経済・産業に大きな影響を及ぼす、または分布拡大期からまん延期にある外来生物をリストアップしています。
人体被害・環境被害
特定外来生物は、日本の生態系のバランスを崩したり、農林水産業に被害を与えたり、私たちの活動に悪影響を与えるなど大きな問題となっています。
もともとその地域に生きる在来種が食べられたり、生まれ育つ環境が壊されたり、エサが奪われてしまったりしています。
また、異なる種別同士で交配して雑種を作ってしまう場合もあります。
人への直接的な影響としては、農作物を食べられたり、畑が荒らされたり、家畜が襲われたり。当然、刺されたり、噛まれたりしてケガを負うこともあります。
被害は大きく分けて3つに分類されます。
1つめは人の健康被害です。特定外来生物に襲われ、重症化して死亡に至るケースもあります。
ヒアリの健康被害については前述しましたが、繁殖力の強いアライグマやハクビシンについては人獣共通感染症があります。
接触感染する疥癬、皮膚糸状菌症、ツツガムシ病など。経口感染するサルモネラ菌食中毒、カンピロバクター食中毒、エルシニア食中毒など。
ペットへの感染の恐れもあります。ジステンパー、パルボウイルス感染症、アデノウイルス感染症などです。
2つめは人の活動の制約です。特定外来生物に襲われることを回避するために、屋外での活動を縮小せざるを得ないといったことです。家畜が襲われたり、電気設備が故障させられたり、またそれにより経済への影響へ波及する場合もあります。
アライグマやハクビシンは人の家に住み着く場合が少なくありません。天井裏が糞尿まみれになったり、捕獲して持ち込んだ動植物で不衛生な状態が持たされたりします。繁殖力が強く、子どもをたくさん産みますが、それも汚染の原因となります。
3つめは生態系への影響です。在来種のエサを食べられたり生育環境が荒らされたりして、生態系のバランスが崩されることです。これにより在来種が絶滅の危機に瀕してしまう恐れがあります。
日本には地域ごとに多様な生態系がありますが、それは長い年月をかけて作られたものです。そしてさまざまな在来種が生きています。
生態系は絶妙なバランスで構成されています。人間もその生態系の恵みを受けています。
いったん外来種が入り込み、個体が増えてしまうと、元に戻すことは大変難しいものとなってしまいます。
特定外来生物の広がり
ところで、外来生物はどのようにして日本にやってきてその生息域を広げていったのでしょうか。原因は人間の活動です。
ペットとして飼うため、食料にするため、ネズミや害虫、毒蛇などを駆除するためといった理由で海外から輸入したり、知らず知らずに海外から運搬されるコンテナに付着してやってきたりしています。
また国内でも、移動する人に付着したり、移動する物資に付着したりして生息範囲を広げています。
始めは小数でも、昔からいる日本の在来種を押しのけて一気に広まるほどの強さがあります。
アライグマやハクビシンは冬は人の家に住むことで暖かい住み心地よい環境を得ています。家の床下や軒下にある小さな穴から侵入します。それらの穴を塞ぐことで住処を減らすことができるのですが、なかなか気づけないものです。
そういったことを踏まえ、外来種被害予防3原則というものがあります。
① 入れない:悪影響を及ぼしそうな外来種を日本に入れないことが一番大切です。
② 捨てない:ペットなど飼育している外来種は最後まで飼う責任があります。
③ 広げない:捕った魚を別の川に放流するなど、外来種をまだ定着していない地域に広げてはいけません。
特定外来生物を見つけたら
特定外来生物ごと、ケースバイケースです。
先に述べたヒアリの場合は、小数であれば殺虫剤をかけて退治することができます。
最近被害が増えているアライグマやハクビシンの場合は、絶対に近づいたり触れたり餌をあげたりしてはいけません。
人体への健康被害がもたらされる場合がありますから、速やかに害獣駆除業者に駆除を依頼することが望ましいです。
駆除業者は外来生物を駆除するだけでなく、再発防止のための調査と対策を施します。
また、汚染された部分の修繕と消毒といった、安心・安全な家の生活環境を取り戻すための作業も行います。
捕まえてペットにしたり、誰かにあげたりしてはいけません。
外来生物法では、指定された特定外来生物の飼育、栽培、保管、運搬、放出、輸入等を規制しています。
輸入はもちろん、運搬、販売、放出することも禁止されています。
特定外来生物を飼育することは原則として禁止されています。
違反すると個人の場合3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、法人の場合1億円以下の罰金といった罰則があります。
捕獲するために許可なく捕獲器を設置することは禁止されていますので注意してください。
各自治体の対応 アライグマ・ハクビシン
東京都では「東京都アライグマ・ハクビシン防除実施計画」が策定され、区市町と連携しながら対策を進めているとのことです。(*2)
さらに区市町では事業化して対応を行っている場合があります。
東京都小平市では「アライグマやハクビシンの防除事業」を行っています。防除事業では捕獲器を設置し、アライグマやハクビシンの捕獲を行います。
また東京都小平市のホームページでは、くん煙殺虫剤をまいて追い出すこと、侵入口を塞ぐこと、糞尿被害があったら消毒することを紹介、お勧めしています。(*3)
東京都北区では、アライグマやハクビシンによる被害が生じている場合、同一場所につき、年度ごとに1回、専門業者による現地調査と箱わなの設置を行っています。ただし、汚れた場所の清掃・消毒、侵入口の補修などは行っておらず、また、アライグマやハクビシン以外の野生動物の捕獲はも行っていないとのことです。(*4)
埼玉県では、特定外来生物であるアライグマを増やさないために、餌を与えないことと居場所を作らないことを呼び掛けています。
その背景には2021年度の動物別の同作物の被害額はアライグマが最多の2348万円だったと埼玉県農業支援課が公表しています。(*5)
埼玉県川越市ではさらに、「鳥獣保護管理法」により、許可なく捕獲器(箱わな)を設置し、アライグマを捕獲することはできないとしています。
そして個人で所有する捕獲器(箱わな)を設置するには、埼玉県が実施する「アライグマ捕獲従事者研修会」を受講し、「埼玉県アライグマ防除実施計画に基づく従事者証」を受け、さらに狩猟免許(わな猟)を取得する必要があるとしています。(*6)
埼玉県志木市でも川越市と同様の案内で、捕獲器(箱わな)を設置するには従事者証や許可証が必要としています。(*7)
出典
*1 環境省 自然環境局(2022年12月29日アクセス)「特定外来生物等一覧」 https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html
*2 東京都環境局(2022年12月29日アクセス)「アライグマ・ハクビシンについて」 https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/raccoon/habit.html
*3 東京都小平市(2022年12月29日アクセス)「アライグマ・ハクビシンについて」 https://www.city.kodaira.tokyo.jp/kurashi/070/070274.html
*4 東京都北区(2022年12月29日アクセス)「アライグマ・ハクビシンの被害を防ぐために」 https://www.city.kita.tokyo.jp/kankyo/jutaku/kankyo/higai.html
*5 朝日新聞(2022年8月26日)「鳥獣の農作物被害、アライグマが最多 昨年からイノシシ超える 埼玉」
https://www.asahi.com/articles/ASQ8T6TK7Q8DUTNB01V.html
*6 埼玉県川越市(2022年12月29日アクセス)「アライグマにご注意ください!!」 https://www.city.kawagoe.saitama.jp/smph/shisei/seisakushisaku/kankyo/araiguma.html
*7 埼玉県志木市(2022年12月29日アクセス)「アライグマを見つけたら」 https://www.city.shiki.lg.jp/index.cfm/37,110849,161,html
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